A巡査部長は、「無銭飲食をした男が逃走中。店員と争って男のワイシャツのボタンが全て取れているほか、胸に竜の入墨あり」との指令を傍受した。発生から約2時間後、現場から約800メートル離れた公園内で手配内容と酷似する男を発見したので職務質問をすると、男は素直に犯行を認めたので、詐欺の準現行犯人として現行犯逮捕した。事例におけるA巡査部長の逮捕行為の適否とその理由について述べなさい。
現行犯逮捕とは、現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった「狭義の現行犯人(刑訴法212条1項)」、若しくは、罪を行い終わってから、間がないと明らかに認められる「準現行犯人(刑訴法212条2項)」の身柄を拘束する手続をいう(刑訴法213条)。憲法33条の令状主義の例外である。
準現行犯人とは、罪を行い終わって、間がないと明らかに認められるため、現行犯人とみなされる犯人をいう。準現行犯人は、犯行後約3~4時間以内、犯行場所から約200メートル~数キロメートルの範囲内に存在する者というのが一応の判断基準である(最決平8.1.29)。
(1)犯罪と犯人の明白性
犯人が特定の犯罪を行ったことが逮捕者に明らかであること。
(2)時間的接着性
その犯罪を行い終わって客観的に、間がないこと。
(3)時間的接着性の明白性
犯罪を行い終わってから、間がないことが逮捕者に明らかであること。
(4)個別的要件の充足性
逮捕者において、刑訴法212条2項各号に規定されている次の個別的要件のいずれかを認識できること。
ア 犯人として追呼されているとき
イ 賍物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき
ウ 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき
外部的・客観的に明らかな痕跡が認められることをいう。例えば、暴行事件等で被害者等が犯人を捕まえようとした際に犯人の着衣が破れた場合等をいう。ただし、本来的特徴である身体のあざやほくろ等は、犯罪行為と直接関係なく、これに当たらない。
エ 誰何されて逃走しようとするとき
犯罪発生から約2時間後、現場から約800メートル離れた位置での確認であり、罪を行い終わって、間がないと明らかに認められることから、準現行犯人の要件を満たすと判断できる。また、胸の竜の入墨は、認定要件とすることはできないが、店員と争ったことにより、ワイシャツのボタンが全て取れた状況は、「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき」に該当する。
以上により、A巡査部長は、男を準現行犯人として現行犯逮捕できる。